カメの冬眠

2022年12月08日

庭のカメがきょう冬眠した。

話しかけると可愛い顔をのぞかせるが、

ごはんはもう食べない。

きょう水かさを増して凍らないようにしてやり、

お布団がわりに

ふかふかの水苔を入れてあげて

本格的に冬眠の準備がととのった。

カメノちゃんとの出会いは十年ほど前にさかのぼる。

台風の翌日、道をあるいていたら

雨が降って水槽の水かさが増して逃げ出してしまったのだろう、

迷い亀が道のまんなかでうずくまっていた。

危なくないか。

甲羅があるから平気なのか。

カメは手も足も頭もひっこめて萎縮している。

クルマがすりぬける、

わたしはちょっと心配になり、

おそるおそる甲羅のはじっこをつかんで集合住宅の駐車スペースのところに寄せた。

家に帰ってから、カメがいたと母と話した。

だいじょうぶかしら?

わたしはもういちど行って、カメをつれて帰り保護した。

庭に衣装ケースを置き水を張ってやり、

その頃ネコを飼っていたのでキャットフードを小皿に持って与え、母に

心当たりに連絡してもらった。

しばらくして、衣装ケースをもういちど覗いてみると、

キャットフードはなくなっていて、そして、手も足も頭もひっこめて岩のようになっていたカメが、

頭だけ出して可愛い顔を見せてくれていた。

ユーモラスな愛嬌たっぷりのすがた、

きっとその時からだと思う、

カメノちゃんに接するたび愛しくなっていったのは。

それから飼い主が見つかって、いったんは返したものの、わたしは

どうしてもカメノちゃんのことが忘れられなくなっていた。

水槽を買い、カメフードを買い、

もとの飼い主さんに連絡して、譲ってもらえませんかと頼みこんで身柄を引き受けた。

それから、一年が過ぎ、二年が過ぎ、小屋を新築したりして

さらにいっしょに年をかさね、

夫との別れを経験し、また猫とも死に別れた。

嬉しいことも悲しいこともカメノちゃんと経験してきた。

いま、カメノちゃんは完璧な家族の一員だ。

冬眠についたカメノちゃん、

長い眠りののち、目を覚まして、また愛らしい顔を覗かせてくれるだろう。

いまはおやすみ。

やがて厳しい冬の後、杏の花の咲く春が訪れたら、

そのときには、またその可愛い顔を見せてね。