いそがしい春

2022年03月29日

春が来て庭は賑やかになった。

あんずの木が淡いピンク色の霧のような花を咲かせ、

その枝にはひっきりなしに小鳥たちが、

蜜を吸いにやってくる。

灰色の堂々とつばさを広げるヒヨドリ。

愛らしく枝から枝へとわたるメジロ。

ときには美しいシジュウカラもいたかもしれない。

今日、窓を開けたらあんずの木は

こずえに花ひとつ残して赤いがくとしべだけになっていた。

けれど、かわりに

ユキヤナギが白いヴェールを茂みの上にかぶせている。

地面にはグリーンのドットが魅力の、

清楚なスズランの花にも似たスノーフレークが。

お宮にいけば桜も咲いているだろうし、ほかにも庭にだって、

スミレのつぼみが今まさに開こうとしている。

春はほんとうに花たちを眺めるのでいそがしい。

あんずの散りゆく今日、

空は灰色で夜には雨が降るという。

雨を受けて大地はうるおい、

きっと花が咲いたあとのあんずの木は

新芽を出して生き生きとしたみどりの葉を茂らせ、そして実は育まれ、

青かった実がだんだん大きくなっていき、また色づいて

その暖かな色でもって、わたしたちの目にも葉とはっきり区別がついて際立つようになる。

春が過ぎ去って、初夏がやってくるころ、

わたしたちはあんずのジャムをつくるのでいそがしい。

それぞれの季節に

それぞれの花が咲いて、それぞれの楽しみがある。

嘆き悲しんでいる暇などない。

わたしたちは楽しむのにいそがしいのだから。