こころの海辺

2022年12月28日

今日、おみくじを引いたよ。

神社にいってお詣りして、それで

どきどきして引いた。

前に来たとき、おみくじの箱があるらしいことを知った。

賽銭箱のわきにそれはあった。

五十円からでいいらしい、なので、

とりあえず百円入れて三十六番と書かれた紙切れをひろった。

吉と出た。

そこには和歌のかたちでメッセージが書かれていた、

父母からもらった大事な体を

損なわないようにしなさい、と。

小さい頃よく父はわたしと母と兄をクルマに乗せて

わたしたちを連れて海や山へ旅行した。

どこだったかの海辺でわたしはきれいな石をさがした。

青い石があった。

青くて透明できれいな石だった。

よろこんで父に見せた。

父はそれはガラスだよ、といった、

長い年月のうちに

とがっていたガラスが波にあらわれその切っ先を失い丸い石となって

この砂浜に流れ着いたのだと。

幼かったわたしは宝石じゃなかったことにがっかりして捨てた。

今から思うと、そのときわたしは

何かとても大きなものを失くしたような気がする。

いまのわたしが思い返している、こんなふうな思いとともに、きっとあれはガラスじゃなくて

人生を歩みきって力尽きて死んだひとの魂じゃないだろうかって。

ひとが亡くなって

大切なひとをこの世に残していくとき

きっと思いは

あんな形で残るんじゃないかって。

父も母もわたしを残して去るだろう、そのとき

あの思いのかけらのようなものがこころの海辺に残されるのかもしれない。

そしてもし、わたしがあなたを置いて

この世を去らなければならない日が来るのだとしたら、

愛情と思い出と言葉のきれはしを

わたしの思いを小さな青くてとうめいな石に変えて

老いたあなたが童心にかえって波間をさがすとき

あなたのしわだらけの手のなかに帰っていけたらと、そんなふうに願っている。