ちょっと特別な一日

2022年09月30日

いっときの輝き

庭にあふれ

キンモクセイはいま盛りだ。

朝、父にクルマで駅まで乗せてもらい

窓口の列にならぶ、

なかなか順番はやってこない、

わたしはメモと財布をリュックからとり出して待つ。

ようやくわたしの番。

こんど旅行にいくための列車の手配をすませると

切符を受けとって、

あとはバスに乗って帰るだけ。

バスは住宅街をすすむ、

停留所でおりると

スーパーで買い物するのは後回しにして

花屋に寄る。

決められずに迷っていると

うしろでおじさんが待っていたので順番をゆずる、おじさんは

仏花を買ってわたしに会釈して店をあとにした。

さて、どうしよう、

また枝物のある日にしようか。

店員さんが、

ワレモコウでは代わりになりませんか、というので、なるほどと思い、

小菊とホトトギスと合わせて買い

家に帰ってわたしはサンルームでそれらを生ける。

スーパーへ行かなくちゃ、と思って支度して玄関をあけた瞬間、

とびこんできたのは眩しい色。

キンモクセイの花。

その木が良い香りをただよわせ

花をつけたことは知っていた、

が、これほどまでに美しく、傾きかけた日を浴びてまばゆく輝いていたとは!

わたしは買い物のことをすっかり放ったらかしにして

部屋に荷物を置くと代わりに

カメラバッグを抱えて

外したレンズキャップを失くさないようにしまうと、

まばゆい花に向かってカメラを構える。

刻まれてゆく色たち。

もう買い物のことはすっかり忘れている、

部屋にいって写真をパソコンにとりこみ整理すると母を部屋に呼んで

いっしょにひとつのベッドに横になってくつろぐ。

どれほどそうしていただろう、

気がつくと暗くなりかけていた。

ほのかな明かり、夕空に三日月が張りつめた輝き、

わたしはサンルームに母を招待して生け花を披露するのだが

母はそれより二階から眺めるキンモクセイの眩しいこずえにすっかり目を奪われている。

やっと生け花を見た。

そしてわたしは外に目をやった、夕空のグラデーションが美しい。

キンモクセイは花をつけるこのときに

いっとき庭の主役になる、

ふだん目立たない常緑のキンモクセイ、この木のように、

誰しも主役になる瞬間があるのかもしれない。

日がゆっくりと暮れてゆく、しずかでおだやかな、でもちょっと特別な一日が終わろうとしている。