つぼみ

2022年05月16日

手に切り傷をつくったので、

美容院にいって髪を洗ってもらうことにした。

行くと、いつものベテラン美容師さんが

シャワー台で湯をかけたあと手で泡だててくれて、話をきいてくれた。

野菜を切り終わって、

包丁でさらえて、ざるにあげるときに気が緩んで

指先をかすかに切ってしまったことなど。

シャンプーを終え鏡のまえに座る、

まだしばらくは髪をカットしなくてもだいじょうぶそうだ。

乾かすと良い感じになった。

ありがとうございました、と礼をいって会計をすませがてら、百円玉を一枚ポケットに。

ちょうどいいから帰りに寄り道していこう。

まず神社に寄る。

今年は梅雨が早いという、しっとりとした新緑もまた良いものだ。

ポケットにしのばせた百円玉を取り出し、

二頭の邪気を払うため牙を剥いている向かい合った狛犬に見守られながら祈る。

この国とこの世界の行く末を次世代に託していけるようにと。

神社を出ておじぎし、ひといき。

ちょうどいいから花屋さんに寄っていこう、

庭のヒマラヤスギのはみ出た枝を切って水盤に生け、足もとにホウチャクソウをあしらったところ、

それだけでも一応の格好がついたけれど、花があったら余計にいいのではないかと思い至って。

それで花屋に来たところ、

咲いている花では欲しいのが見あたらなかった。

すぐに目につく咲きほこる花に埋もれた、ひっそりとしたユリのつぼみ、

でもみずみずしいそのつぼみにようやく目がとまった。

スカシユリの小ぶりな固いつぼみ。

生け花には大ぶりすぎないほうがかえっていいので、これは好都合と買いもとめ、

家に帰って水盤に生けた。

窓辺の生け花がいま、ほんとうのいのちを持ったかのようだった。

短く切ったつぼみがすっぽりと水盤におさまり、

やや粗野で武骨だったヒマラヤスギの枝に沿うように線を描き、それを見事に引き立ててくれたのだった。

あと三日もすればほころぶだろうか。

花屋のかたすみに押しやられていた固いつぼみは

未来を内包していて、

わたしの未熟な祈りを叶えてくれそうな、そんな錯覚を感じさせた。