ひかるしずく

2023年10月15日

食べる量はへっているが、

亀に、ほんのちょっとだけ美味しいものを

あげようと思う。

お刺身ほたてを三分の一。

雨は少しぱらついたが、おおむね上がったようだ。

水を替えたあとはお食事の時間、

カメノちゃんの歌をうたうとちゃんとごはんだとわかって、

近づいてくる。

もうだいぶ動きもゆっくりしていて

食べ方もにぶいが、どうにか完食してくれた。

盛大に褒めてあげて、

わたしはお母さんのお見舞いに行く準備をしようと思う。

じゃあね、といって小屋を離れ

ほたてのお皿を持って玄関のところへ戻ると、そこに野良猫のクロちゃんが来ていた。

いつもは夜に来るのだけれど、きっと、

きのう来たときに出してあげた鶏肉を食べずに帰ったので、

お腹がすいたのだろう。

クロちゃんの大好きなキャットフード、金のだしカップをあげよう!

わたしは、待っていてね、と声をかけて家に入り、

器に金のだしカップを一パック盛って、

別の器にミルクも注いで、

りょうほうを盛って玄関を出ると、クロちゃんは足元に寄ってきて早く、早くとねだるのだった。

自転車置き場のところに二つの器を置いてあげると、箱座りして食べはじめた。

母がいうには、

クロちゃんは何かに怯えているらしくて

ひとが見ていてあげないと

安心して食べられないのだという、なのでわたしはクロちゃんの傍にいることにする。

雨は上がったみたいだ、ふと玄関先のキンモクセイのこずえを見上げると

たくさんのしずくをまとっている。

ちょっとだけ、失礼。

わたしは、カメラをとりに家のなかに入ってまた出てくる。

キンモクセイの写真をわたしが撮るあいだ、クロちゃんは美味しそうに食べている。

星々を散りばめたような花とそこに纏いつく無数のしずくにレンズを向ける。

やがて、わたしが撮りおわると

クロちゃんも食べおわって、ぺろぺろと前脚を舐めて顔を洗っている。

きっとこの子がごはんをおねだりしなかったら、

わたしは、ひかるしずくに気がつけなかったに違いない。

ほんとうにありがとう、クロちゃん、おかげで良い写真が撮れたよ。

クロちゃんは去っていった。

わたしはお母さんのお見舞いのため病院に。途中、スーパーの駐車場を通ると

ダイナミックでうつくしい雲が空に映えていた。