ものいわぬ友人たち

2022年03月18日

和室で障子を開ける。

あんずの花がいま満開だ。

まだ冷えるので

こたつにもぐりながら寝そべって、

花の咲く枝をながめる。

そこに一羽の小鳥がやってくる、

この庭の大切なお客さんだ。

やや大きめの灰色の小鳥は花を物色し、

枝から枝へと移っていちばん密に咲いているところへいき、

右の花をついばんだかとおもうと左の花をついばみ、

わたしはガラス窓ごしに

その微笑ましい情景をながめている。

だんだん高い枝に移っていき、

しまいにはつばさを広げ飛びたち青空に消えた。

あんずの花びらがひとひら散っていく。

木は変わらずに華やいでいるが、

お客さんが帰ったあとでちょっと寂しげだ。

たたずむピンクの霧をまとったあんずの木はこの庭に来てずいぶんになる。

わたしはどういうわけか花が大好きだ。

花に訪れる小鳥たちもだ。

障子を開けはなった窓から花をつけた木の愛らしいすがたを眺めていると、それだけで幸せだ。

木はものを言わない。

小鳥たちはまれに語りかけてくるが、その言葉はわたしにはわからない。

でもそこには、かすかな

触れあいというか交流みたいなものがあって、

友人の少ないわたしの心をずいぶん温かくしてくれる。たしかに、木は、小鳥は、

もの言わぬわたしの大切な友人たちだ。

花はいっとき咲いて散っていく。

小鳥はやってきてそして飛びたっていく。ちょうど、

その時々の友人と出会っては別れていくように。面影をのこして。