一日

2022年12月16日

きらめく思い出が心につまっている

安らぐ水辺

そこに息づく生き物たち

行きのタクシーは高揚した気分のまま運転手さんと話をしたが

帰りのタクシーは安らいで会話もふわりと着地している

錦秋の池のほとり

小道は分かれながらつづいて

家に帰ってもまだ夢のつづきを見ているかのよう

誰かと一緒に音楽を聴くのはひさしぶりだ

ナチュラルヴォイスが部屋を満たす

いつしか優しく日は暮れ

夕食の心配をはじめる

近くにどんぶり屋さんがあるから

そこで美味しいづけまぐろ丼を買ってくればいい

わたしは支度をして家を出る

もう暗いので大通りのほうから行くことにする

通りに出る手前で

大きな犬をつれたひととすれ違った

犬好きのわたしはよく犬と目を合わせてしまい秋波を送ってしまう

つぶらな瞳のラブラドール・リトリバーが

こっちに近づいてきてかすかに口元を寄せた

犬の挨拶

こんにちは、わたしも犬と飼い主さんに挨拶を返し、ああ、そういえばもう、こんばんは、かと

おだやかにすれ違う

昼の輝きが今でも生きているかのよう

金色に染まったこずえを小鳥たちがしきりに行き来していた池のほとり

ヒヨドリが鋭い声で鳴いたかとおもうと池で水浴びをしたり

それは眩しい光景だった

どんぶり屋さんは並んでいなかった

づけまぐろ丼を注文するとすぐにつくってくれて

わたしはお金を手渡して、まだ寿司飯がほかほかしているできたてのどんぶりを買う

帰りに歩道をあるいていて

後ろからなんだかせかせかした人の気配がしたので道をゆずったら

有難うございます、と挨拶されてしまって、

こちらも、いえ、すみません、といってリュック背負ったその人は先に行ってしまう

何だか健脚なひとだったな

ごく当たり前の、なんでもない夕方だけど

こんな日には当たり前も悪くないかと思えてしまう

繰り返す日常

おだやかな何でもない一日

ちょうどあの老犬が手に鼻づらを寄せてきてそれで去っていったあんな通りすがりの何でもなさ

それはときに思いもかけない豊かさをはらんでいるのではないだろうか、と

そんなことを感じさせられてしまうそんな一日だった