一日
きらめく思い出が心につまっている
安らぐ水辺
そこに息づく生き物たち
行きのタクシーは高揚した気分のまま運転手さんと話をしたが
帰りのタクシーは安らいで会話もふわりと着地している
錦秋の池のほとり
小道は分かれながらつづいて
家に帰ってもまだ夢のつづきを見ているかのよう
誰かと一緒に音楽を聴くのはひさしぶりだ
ナチュラルヴォイスが部屋を満たす
いつしか優しく日は暮れ
夕食の心配をはじめる
近くにどんぶり屋さんがあるから
そこで美味しいづけまぐろ丼を買ってくればいい
わたしは支度をして家を出る
もう暗いので大通りのほうから行くことにする
通りに出る手前で
大きな犬をつれたひととすれ違った
犬好きのわたしはよく犬と目を合わせてしまい秋波を送ってしまう
つぶらな瞳のラブラドール・リトリバーが
こっちに近づいてきてかすかに口元を寄せた
犬の挨拶
こんにちは、わたしも犬と飼い主さんに挨拶を返し、ああ、そういえばもう、こんばんは、かと
おだやかにすれ違う
昼の輝きが今でも生きているかのよう
金色に染まったこずえを小鳥たちがしきりに行き来していた池のほとり
ヒヨドリが鋭い声で鳴いたかとおもうと池で水浴びをしたり
それは眩しい光景だった
どんぶり屋さんは並んでいなかった
づけまぐろ丼を注文するとすぐにつくってくれて
わたしはお金を手渡して、まだ寿司飯がほかほかしているできたてのどんぶりを買う
帰りに歩道をあるいていて
後ろからなんだかせかせかした人の気配がしたので道をゆずったら
有難うございます、と挨拶されてしまって、
こちらも、いえ、すみません、といってリュック背負ったその人は先に行ってしまう
何だか健脚なひとだったな
ごく当たり前の、なんでもない夕方だけど
こんな日には当たり前も悪くないかと思えてしまう
繰り返す日常
おだやかな何でもない一日
ちょうどあの老犬が手に鼻づらを寄せてきてそれで去っていったあんな通りすがりの何でもなさ
それはときに思いもかけない豊かさをはらんでいるのではないだろうか、と
そんなことを感じさせられてしまうそんな一日だった