五分の魂

2023年07月29日

ひまわりを、見にいこう、

きのう急にそう決めて、そして今日、

駅のホームに。

列車は、まだあと三十分近く来ないので、

ベンチにこしかけて待つ。

すると手にテントウムシが止まった、

丸っこくて可愛らしい

ややくすんだオレンジの体に沢山の星が黒く浮かんでいる、

草食のニジュウヤホシテントウだ。

アブラムシを食べてくれる益虫のナナホシテントウなんかと違って、

葉っぱを食べてしまう

どちらかというと嫌われ者のテントウムシだ。

でも可愛かった。

腕をつたい肩のほうへ、そして首すじを這いだしたので、

むずがゆくて手を首にやると、わたしの差し出した指先をつたうのだった。

そうして、手に止まらせていた。

左手を這ったかと思うと次は右手、その次は

IC乗車券、という具合に。

ああ、たしかに嫌われ者というけれども、

おまえがいったい何をしたのか。

ひとの育てた農作物を食べてしまうのはよくないけれど、

ほかに草があればそれだって良いはずなのだ。

人間のように無制限な欲でもって貪ることをしないばかりか、

人間のように悪意をもって他人のものを奪うこともせず、

じぶんの体にひつようなだけの草をつつましく食べるだけではないか。

おまけに、その体には毒も針もない。

わたしの手においで、可愛い子、

世界に変えられるばかりで変えようなどとも思わずに

自然の摂理と人間たちとのあいだで

いっしょうけんめいに生きるおまえが愛おしい。

列車の時間が近づいた、

おまえと会えて嬉しかったよ、

さあ、飛び立ちなさい。さようなら、

わたしの旅を見送ってくれて

ありがとう。

輝く色の大輪のひまわりの群れにつつまれシャッターを切っていても、

わたしは願わずにはいられない、あのとき駅に残してきたおまえの幸せを。

おまえは草のあるところに飛んでいけたかい?

アスファルトを離れて?