思わぬ喜び

2022年11月14日

カメもじきに冬眠だ。

もう、ごはんは食べないだろう、

水はきれいに保っておく。

ホースで新しい水を注ぎこみながら、

汲み出すとき除ききれなかったゴミを網ですくい、

きれいにしおわると、

冬眠がんばるんだよと声をかけ、

小屋のとびらを閉める。

台所にいき、冷蔵庫からインゲンとミョウガを出して

水を火にかけ鍋でおみおつけをつくる。

インゲンがちょっと渋いので、

味噌を多めにしてみた。

そして、出かける支度をして外へ。

ねえ、カメノちゃん、

庭のカメに声をかける。

神社のほうに行ってみようとおもうんだけど。

というと、カメがこう答えた気がした、

駅のほうへ行ってみたら?

うん、そうするね、あっさりと目的地を変更する。

少しいくと、

建設中の家があって人が働いている。

もう少しいくと、

ふたりの大きくなりつつある女の子が、洒落た家のまえであそんでいる。

人通りが出てきて駅前にやってくる、

年配の制服を着たひとが駐輪してある自転車の整理をしているので、挨拶する。

緑地の柵の前にとまっていたのは、

子どもの小さな自転車が二台。

遊びのじゃまをしては悪いかなともおもったが、

ちょっと寄っていくことにしよう。

色づいた木が葉をおとしはじめている、

子どもたちの声がする。

サザンカが咲いているのが目に入る。

花をつけたすがたを前にして

はじめてそこにサザンカの木があったと気づく。

濃いピンクの花が右手に、

左手にも、淡い色のほんのりと濃淡のついた一重の花が溢れている。

その向こうで二人の小さな男の子たちが鬼ごっこをしている。

明日、いちばん良いカメラを持ってふたたび訪れサザンカの写真を撮ろう。

思わぬ喜びに胸を躍らす。

でも、この情景は今日だけのものだろう、

花をつけた木が佇んでいる向こうで走りまわって元気に遊ぶ子どもたちの躍動。

まれに誰かの贈り物のように

思いがけず良いことがおとずれることがある。

それはずっと欲しかった物を買ったときだったり、生彩ある情景と出会えたときだったりする。

家に帰ってカメにいう、

あのね、サザンカが咲いていたんだよ、と。