爬虫類館

2022年10月07日

その建物は

西園のさらに西のはずれ

あまり人のいかない

目立たないところにあった。

入り口をくぐれば

南国の植物とともに

無数の水槽があり

そこは快適な温度に保たれ

ワニやトカゲ、ヘビたち、カメたちが

暮らしている。

クリイロヨコクビハコガメのご夫婦は仲睦まじい、

その微笑ましいすがたを写真におさめ

それから

コガネオオトカゲの天井までつづくケージにいってみる。

でも、何だかご機嫌ななめらしくて

しっぽだけ出して

すみっこにかくれたまま顔を合わせようともしない。

気をとりなおし

ガラパゴスゾウガメを見にいく。

こちらもなんだか

あまり気分がうるわしくないようで、

じっと動かないままだ。

がっかりして温室の外に出ると

やや外気にふれるスペースにヌマガメを撮りにいく。

カメたちが甲羅干し。

三人連れの女のひとたちがやってきて、

どれがイシガメ?

と話しあっていたので、

わたしがおせっかいにもイシガメとクサガメの違いを説明すると

くわしいんですね、というので、

カメ、好きなんですよと答え、さあ、もう一度チャレンジ。

また温室の入り口へ。

ワニの写真なんかを撮って

こんどはコガネオオトカゲが機嫌をなおしてくれるかと期待しながらいったが

まだすみっこのほうでふてくされている。

ガラパゴスゾウガメはどうだろう、

若い女のひとが

じっと大きなガラパゴスゾウガメと見つめあっている、

やはり動かないままだったが

こんどはちゃんと首を出して愛嬌のある表情を見せているところをみると、

よっぽどこのひとは爬虫類に好かれるのだろう。

飼育員の方ですか、ときくと

ちがうと答えが返ってきたけれど果たしてそうか、いっしょにしばらく眺めていると、

大きな大きなそのカメが重々しく動き出し、

水をのむそぶりをしたり、荘重な歩みをみせたりして、

ゆっくりゆっくり愛らしいポーズをとってくれて、すごくいい写真になった。

女のひとに別れを告げ、

小ぶりで上品なヘビの身をくねらせる姿をおさめると

出口へ向かうが、

いや、待てよ、もう一度だけ

とおもい

建物から出ることなしに三たび入り口へと。

すると、あれほどかたくなに引きこもっていたコガネオオトカゲが

すみっこから出てきてくれた。

優美な頭部は形のいい禿頭、ちょろちょろと赤い舌を出し

頭のてっぺんから長い尾の先までしなやかな曲線をみごとに描き岩に頭をこすりつけたりして。

以前は何となく

爬虫類は無表情ってイメージだった。

今はちがう、

偏見のカラをやぶって見てみれば、ほら、個性派の役者ぞろい!