秋の散歩道

2022年10月12日

いつもの散歩道。

曇り空は泣き出しそうで、

涙をこらえている。

住宅街をすすみ

踏切をわたって駅の近くの緑地まで。

みどりの空間に足を踏み入れ

なだらかな上り坂、

ハーモニカの音がきこえてくる、

坂の終点にベンチがあって

白髪まじりのおじさんが曲を奏でていた。

よく知っている曲だった。

ちょっと会釈して

わたしも斜め向かいのベンチに腰をおろす。

ハーモニカの懐かしい音色。

曲が終わったところで拍手をおくり、

話しかけてみる、

そして、オリジナル曲はないんですかとリクエストしてみる。

じゃあハワイ・コードを吹こうかといって

ひろやかな歌を奏でてくれる。

曲が終わって拍手をするとおじさんはハーモニカをケースにしまった。

ハワイの曲なんですか、とわたし。

こんな答えが返ってきた、

むかし日本人が貧しかったとき、

とくに沖縄なんかの貧しい暮らしを送っていた人たちが

ハワイやブラジルへと旅立ったでしょう?

それを見送る歌なんだよ。

じゃあ、港を出ていく大きな船を見送るときの歌なんですね、というと、

うなずいて、

ブラジルに行って離ればなれになった友人がいるんだ、

と、話してくれた。

そういえば、わたしのうちにもブラジルに行ってそこで暮らしている親戚がいる、

そのひとたちもハワイ・コードを聴いたのだろうか。

おじさんといっしょにベンチに座りながら、いろいろな話をした。

闘病生活の話だとかもきかせてくれた、

好きこのんで病気になるひとはいないのだけれど、

たとえば、同室のひとが退院するときに

ハーモニカを吹いてあげたりもして、それは気持ちだけれど、

そうやって励ましあって生きていくんじゃないかなあ、ということとか、

あとはわたしの仕事のことなんかも尋ねられた。

なぜか素直に言葉が出てきた。

正直に、一生続けようとおもっていた仕事を一年半でやめてしまったことなどを話した。

思いをわけあえるというのはすごいことだ。

予期せぬ出会い。

楽しいひとときを有難うございました、といって、わたしはベンチを立つ。

雨がふらないうちに帰りなさい、気をつけてね、

と、そのひとはいってくれた。

わたしは家路をたどりながら言葉のかずかずを思い出していた。

こうもいっていたっけ、出会いは偶然なんかじゃなくて何がしかの意味をともなった必然なのだと。