貯金箱

2022年04月01日

今日、スーパーからの帰り道に

かわいい犬がいた。

角のところの家のなかから、わんわん、と吠える声がして、

ふり返ると、兄弟らしい二匹の犬が、

二匹とも白と黒の毛足が長くて溌剌とした目もとをして凛々しい体つきをした犬が、

窓の中からサッシ越しにこちらに身をのりだして

威勢のいい声をあげていた。

こんな犬が飼いたいとおもうようなそんな嬉しい出会い。

ちょっといいことがあった日は、それはほぼ毎日なのだけれど、貯金する。

うれしいことを貯金する。

目に見えない五百円玉を入れるわたしの貯金箱は

目のくりっとしたフクロウの形をしている。

そのフクロウの彫像には

コインを入れるための穴が後ろにあって、

とり出すときのための品が良くておしゃれなカギもついているけれど、

それは使わなくても幸せをとり出せる。

ひとつ、またひとつ、と貯めていってそして

いつかこの先、大切なかたわれを失って大きな悲しみにおそわれる日が来たら、そのときには、

貯めておいた喜びたちをとり出して、きらきら光るコインを手にのせよう。

そして、悲しみはすっかり消えてなくならないだろうけれども、そしてまた、

かたわれを失ったあとのわたしには

ほんとうにわずかずつしか貯金できないだろうけれども、

もし、それでもわずかでも

貯金箱のフクロウがかすかなコインを抱えているようであれば、わたしが死んだあと、

それをひらいて喜びを、ほんのわずかな喜びをとり出してもらえるよう、

この場所にカギを置いていこう。

あとに残してゆくわたしより若い大切なものたちに

かすかな喜びを配ることができるように。