つぶあんの闇夜に桜

2023年03月18日

父に乗せてもらって和菓子屋まで。

そとはひどい雨。

クルマから降りて軒下へいそぐ、店のなかには

あいにくの天気のせいかお客はいない。

じつは、ご近所さんから

茶花を二輪、いただいたのだ。

そのご近所さんは花を咲かせるのがとても上手で、よく、

丹精こめて咲かせた大切な花をくださる。

いちばんお気に入りの

ちょっとごつごつした渋い一輪挿しに生けて、

せっかくだから

花を眺めながらお抹茶をいただこう。

そう思って買いにいくと、

もうすでに顔なじみの若い職人さんが店先にいて、

笑顔を向けてくれる。

雨のなか買いにきたけれど雨にも負けない心持ちがするのはこんなとき。

桜の花びらをひとひらかたどった上生菓子をさがしていたが

それは見あたらなかった。

代わりに、照りのあるあずきの黒、

夜桜が目に留まる。

つぶあんのなかに求肥が入っているらしい、

鹿の子の上に小さなピンクの桜のかたちが添えてある。

これに決めた、

父と母とわたしのぶん、合わせて三つ買い求める。

せっかくこうして来たのだもの、

何か話すことはなかったか。

と探していたのだったが、やっと思いついたのはシンプルな事実を告げることだけだった。

じつは、ご近所さんから茶花をいただいたんですよ、

せっかくですからお茶会にしようと思って、とありのままを話すと、

それはいいですね、

美味しく召し上がってくださいよ、との言葉をくれて気分を否が応でも上げてくれる。

じゃ、失礼します、といって店を出て、

傘をさして濡れてところどころ水たまりになったアスファルトのうえを

バス停まであるいていく。

リュックのなかには先ほど買った上生菓子。

わりとつよく降っていたがそれさえ嬉しい気分を打ち消さない。

バスは行ってしまったところらしく、

乗り場の先頭にならんでいるとやがて野党の街頭演説がはじまった。

生活を良くすべく邁進したい、との言葉にうなずいたが

賃金を上げるのもたいせつだが物価が上がってしまってお金の価値が下がってしまっては元も子もない、

などと心のなかでつっこみを入れてみたりする。

やがてバスはやってきて

乾いた快適な空間のなかでくつろぎ窓の向こうに目をやる。

人々の暮らしが目に映るような気がして、

わたしはそれらを守るためにはどうしたらいいのだろうかと、少しうろたえる。