タンチョウを追って

2023年02月17日

ホテルのカフェでこれを書いている。

チェックアウト後の建物内は

清掃がはじまり電気掃除機の音がきこえ慌ただしい。

そんな場所でアイスカフェラテを飲みながら

これまでの旅を思い出している。

タンチョウを追って空の旅、

雪におおわれた大地に降り立つ飛行機、

いかにも紳士然としたタクシーの運転手さん、

クルマを降りると

足もとはところどころ凍っている、

サンクチュアリには大勢のカメラマンたちが一列にならび

その向こうに無数のタンチョウたち。

すらりとした体ひるがえし

ときおり豊かな羽根をひろげてディスプレイする。

優美なダンス。

自動ピアノの旋律が掃除機の音にまじってきこえてくる、

清掃のひとが窓を拭いている。

それから早朝の川べり、

タクシーの窓にうつる朝焼けの空、

目的地に着く、

グラデーションの空に下弦のほそい月が水にそのすがた映して浮かんでいる、

カメラマンの列のなかに

タンチョウの飛んでくる方角をおしえてくれたひとがいた、

くりっとした黒目の愛らしい小動物を撮った作品を披露してくれたひとがいた、

それから、三脚を貸してくれたひとがいた、

いまでもそのひとと

言葉を交わせるかのようだ、

ちょっとエキセントリックな話し方、耳にのこる。

三脚は貸しますけれど

あとはあなたの責任で撮ってください、と。

しばらくして、またやってきて、

どうです、撮れましたか。

なにも飛んでいるところを撮らなくてもいいんですよ、タンチョウは川辺にいっぱいいます。

わたしには肉眼で見えない。

でも、よく目をこらすとあそこに影が。

思いきってシャッターをきると、そこにはまぎれもなくタンチョウが写っていた。

霧のたちこむ川べりを足に水をひたし歩いていく一羽の峻厳なすがた。

タンチョウだ!

わたしは思わず喜びの声をあげる。

よかったですね、と隣りにいたカメラマンのひとが言ってくれる。

相変わらず自動ピアノが鳴っている、掃除機の音が止んだ、

エキセントリックに見えたそのひとの言葉、

それが見たかったんですよ、

そんなふうに嬉しい声をあげる様子が、

聞けば千葉県からはるばるお越しだとか、せっかく来たのだから、

いい思い出をもって帰ってもらいたい、それだけなんですよ、と温かい言葉をかけてくれた。

アイスカフェラテのグラスには

氷だけが残っている。

旅先で、いいや、旅先だけじゃなく日々のなかで

わたしはいつだってこういう優しさをもらってはこなかったか。

独り旅だった、

なのにぜんぜん独りなんかじゃなかった、

多くのひとに助けられてわたしの写真があり、

わたしという人間がある。

ロビーの自動ピアノがフィナーレを迎え、つぎの曲に移っていった、

飛翔するかのような響きを残し、少しもの悲しくどこか懐かしい旋律へと、

まるで旅を終えて家路をたどるかのように。

夜の部屋で孤独を嘆くとき

いままで受けとってきた数々の優しさを思い出せたらいい。

忘れがちな、でも忘れてはいけない大切なこと。